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君が行き 日長くなりぬ 山尋ね 迎へか行かむ
待ちにか待たむ
                磐姫皇后

(きみがゆき けながくなりぬ やまたずね むかえか
 ゆかん まちにかまたん)

意味・・あなたは、いったい、どこにいらしたのかしら。
    私、随分長い間、一人ぽっちで、あなたを待っ
    ています。思い切って、私の方から迎えに行き
    ましょうか。それとも、このまま、じっと待ち
    ましょうか。

    「どこどこに視察に行ってくるぞ」と仁徳天皇。
    実は好きな人に会っているのです。それを知っ
    ている磐姫皇后。

    待ち焦がれる女の煩悶を歌っています。
    夫の浮気を恨み、心は嫉妬にはちきれそう。夫
    を誰よりも愛しているのに、この気持ちを分か
    ってくれない夫。私の方に顔を向けて欲しい。
    煩わしい妻から逃げたく、仁徳天皇は黒比売(く
    ろひめ・浮気相手の女性)を追って行く。

 注・・山尋ね=「尋ね」は原則として男の行為。「尋
     ね」と言ったところに強い苦悶が表れている。
    待ちにか待たむ=「待つ」は普通女の行為。女
     らしくひたすらに待つべきか、というのであ
     る。

作者・・磐姫皇后=いわのひめのおおきさき。仁徳天皇
    の皇后。異常な嫉妬の物語が多い。

出典・・万葉集・85。