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紫の 色濃き時は 目もはるに 野なる草木ぞ
わかれざりける
               在原業平

(むらさきの いろこきときは めもはるに のなる
 くさきぞ わかれざりける)

詞書・・自分の妻の妹を妻としていました人に、男の
    正装着物を進呈するといって詠んだ歌。

意味・・紫草が色濃く咲いている時は、その他の野の
    草木もみんな美しく見え、区別がつかなくな
    るのです。そのように、私も妻を深く愛して
    いるから、妻の縁につながる人もみんな愛(い
    と)しい気がします。どうぞ御遠慮なくこの着
    物をお受け取り下さい。

    身分の低い男と、高貴な身分の男とに嫁(とつ)
    いだ姉妹がいた。貧しい男に嫁いだ女は、し
    なれぬ衣の洗い張りをして、正装の着物を破っ
    てしまい、嘆き悲しんでいたので、高貴な男は
    義妹に新しい正装の着物を贈った(伊勢物語より)。

 注・・紫=紫草。根から紫色の染料を取った。「紫」
     は女性を形容する言葉として使われ、ここ
     では妻を暗示している。
    色濃き=濃きの裏に、(妻を)可愛く思う時の
     意を含めている。
    目もはるに=見る目もはるかに・見渡す限り。
    野なる草木=野に生えている草木。妻縁類の
     人々の意を裏に含んでいる。
    わかれざりける=分れざりける。区別がする
     事が出来ない。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。
    美濃権守。

出典・・古今和歌集・868、伊勢物語・41段。