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 もろともに 尋ねてをみよ 一枝の 花に心の
げにもうつらば
                 平資盛

(もろともに たずねてをみよ ひとえだの はなに
 こころの げにもうつらば)

意味・・この次は、ご一緒に花の名所を訪ねてみませんか。
    お贈りした花が、それほどお気に召したのなら。

    公達が花見に行った時、美しい花の枝を折って、
    建礼門院に差し上げた。そのお礼に建礼門院右京
    大夫が「お花見に誘われなかったさびしさも忘れ
    て、私たちは、おみやげの一枝の桜のみごとさに 
    見とれております」とありきたりのお礼の返歌を 
    出した。
    (さそわれぬ 憂さも忘れて 一枝の 花にぞみ
    つる 雲のうへ人)

    その歌に、二人の返歌があった。一人は「中宮さ
    まのお美しさに、さらに花を添えたいと、一枝を
    折って、差し上げた甲斐がありました」とこれも
    ありきたりのお返しであった。
    (雲のうへに 色そへよとて 一枝を 折つる花の
    かひもあるかな)
    しかし、もう一人の返歌は違った。資盛の歌であ
    た。「そんなに桜の枝が気に入ったのなら、この 
    次は、一緒に花を見に行きましょう」。
    資盛と右京大夫の恋の始まりです。

 注・・げ=気。気にいる。
    花にぞみつる=花に心がひかれる。
    雲のうへ人=中宮、建礼門院。

作者・・平資盛=たいらのすけもり。1161~1185。24才。
    源平の戦いで敗れ、壇の浦で入水。
    建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょの
    だいぶ。1157頃の生まれ。高倉天皇の中宮建礼門
    院平徳子に仕える。

出典・・建礼門院右京大夫集。