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 今宵より 後の命の もしあらば さは春の夜を
かたみとおもはむ
                源資通 

(こよいより のちのいのちの もしあらば さは
 はるのよを かたみとおもわん)

意味・・寿命というものは、いつ、果てるか分かりませが、
    今から後の私の人生に、春の夜が巡り来るたびに、
    あなたとお会いした夜を思い出す事でしょう。

    源資通が菅原孝標女(たかすえのむすめ)たちの女
    房(女官のこと)がいる所にやって来て「あなたが
    た、春と秋と、どちらがお好きですか」尋ねると、
    一緒にいる女房が「秋の夜が好き」と答えるのを
    聞いて、孝標女は次の歌を詠んだ。

    浅緑 花もひとつに 霞みつつ おぼろに見ゆる
    春の夜の月  (新古今・56)

         (浅緑の空とほのかな桜。それがひとつに霞わたっ
    た中の春のおぼろ月。私は春の夜に魅かれます)

    菅原孝標女は源資通の歌を聞いて胸をときめかせ
    たという。

 注・・さは=多は。たくさん、数が多い事を表す。
    かたみ=過ぎ去ったことを思い出させるもの。

作者・・源資通=みなもとのすけみち。1005~1060。従
              二位参議。
    菅原孝標女=すがわらのたかすえのむすめ。101
    0年頃の女性。更級日記が有名。

出典・・更級日記(著者・菅原孝標女)